やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

お目出たき人

ここ一週間、小説を真面目に書いている。一昨年の夏に書き始めて、冒頭の10枚(原稿用紙換算)しか書かないまま放置していたものの続きだ。
書き始めたのが『女囚霊』に力を入れている時だったのでそっちを優先してしまったのと、『女囚霊』の最終話が上がったら牛人間が病気になり、校正の仕事が秋で無くなると言われ、次の作品がコンペに落ち、その上三沢光晴が死んで財布を落として山城新伍が死ぬという怒涛のような不幸に見舞われ、精神状態が大変に悪くなって書く気力が無くなってしまったのだ。
少し前にそういう元気の出ない状態を脱して、先日コンペ用のネームを担当さんに預けて上の人のリアクション待ちとなり、しばらく時間が取れそうなので、また小説に取り組むことにしたのである。自分がこの小説を応募しようと思っている賞は(こう書くと何の賞だか分かる人には分かるだろうが)応募締切が設定されておらず、書き上がったらいつでも応募出来る。だから締切を意識することも無く、これまでだらだらとマイペースで書いていた。
しかし今日、応募締切ではないが、「雑誌の出る月の月末までに応募すれば、その中から受賞作を選んで次の号で発表される」という一定の周期があることを知ったのである。だったら次は12月で間に合わないので、次の次の4月末までに作品を書き上げて送ろう、と決めた。小説を書いたことの無い人間がいきなり長編を書き始めてきちんと書き上げられるものなのだろうか、という不安はあるが、やるだけやってみようと思う。
ところで自分は漫画のシナリオを書く時、いつも「何て面白い作品なんだろう。きっと単行本が出て最終的にはドラマ化されるに違いない」と思いながら書いているお目出たいタイプの作家なのだが、恐ろしいことに生涯初めての小説を書いている今ですら「こんな面白い作品は書き上げて送ることさえ出来ればきっと賞が貰えるに違いない」と思ってしまっている。
これはもう治らない病気なのだろう。書きながら突然印税がいくらになるか気になって計算し始めたりで時々筆が止まる以外に実害は無いので、これからもこの病気と上手く付き合いながら、幸せに小説を書いて行こうと思う(現在原稿用紙換算で44枚目)。