やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

『幸せの国殺人事件』発売

矢樹純の最新刊となる長編ミステリー『幸せの国殺人事件』が本日、ポプラ社より発売されました。

自分の作品としては初めての、小学校高学年くらいの年代から読んでいただける小説です。
神奈川県藤沢市を舞台に、オンラインゲームを通じて仲良くなった中学生の3人組が、ある動画を見たことをきっかけに、地元の廃園となった遊園地を巡る事件に巻き込まれていきます。その事件の鍵となるのは正体不明の人物が制作したとされる幻のインディーゲームで、3人は事件の真相とともにゲームに隠された謎を解くために奔走する――そんな青春ミステリーです。

これまで自分は、青春ミステリーをほとんど読んだことがありませんでした。
友達が少なくホラー漫画とミステリー小説ばかり読んでいた自分は、当然のごとくあまり明るい青春時代を送ってこなかったので、小学生や中高生が仲間と協力して謎解きをするなどといった物語は、眩しすぎて受けつけなかったのです。

そんな自分がなぜ青春ミステリーを書くことになったのかというと、事の始まりはポプラ社の編集者さんから、ポプラ社のWEBマガジン『WEB asta』での連載のご依頼をいただいたことでした。

www.webasta.jp

編集さんはそれまで出していた自分の小説をデビュー作から全部読んでくださった上で、「中高生でも読めるミステリーを書いてほしい」とおっしゃいました。デビュー作からして因習の残る集落で連続殺人事件が起きるというドロドロしたお話で、さらには『夫の骨』や『妻は忘れない』といった嫌な話ばかりを詰め込んだ短編集を出している作家としては、正直「なぜ?」と思いました。

お話をいただいた当時、親として中高生を育ててはいましたが、若い人向けの作品は書いたことがなく、結構戸惑いました。
ですがその編集者さんは、自分の小説を「夢中で読める小説」だと評価してくださったのです。若い読者の方に向けて、夢中になって楽しめるお話を書いてほしい、と言っていただき、それならば書きたいとお引き受けました。

思えばポプラ社は自分がミステリー好きになるきっかけとなった江戸川乱歩の少年探偵シリーズを出している出版社であり、そして自分が長年ファンである平山夢明先生の作品の中で最も好きな『ダイナー』の版元です。

そんなポプラ社で連載をさせてもらい、小説を出版してもらえるというのは、本当に光栄なお話でした。

さらに、ちょうどその頃に読んだスティーヴン・キングの『スタンド・バイ・ミー』(映画は観ていましたが、恥ずかしながら原作の小説はこの歳になるまで未読でした)に心打たれたこともあり、この連載では、自分なりの『スタンド・バイ・ミー』を書こうと決めました。

小学生の頃に映画で観た時にはあまり理解できていなかったのですが、4人の少年達がそれぞれ抱えている葛藤や関係性が丁寧に、そして生き生きと描かれていて、夢中で読み進めました。この一夏の冒険はかけがえのない、取り戻せないものなのだと、読み終えて切なくなりました。

『幸せの国殺人事件』に登場する少年達も、それぞれ悩みや葛藤を抱え、時には衝突しながら、事件を追う中で成長していきます。その辺りも読みどころではありますが、もちろん自分はミステリー作家ですので、これまでの作品同様、盛りだくさんのサスペンスと謎を詰め込んだハラハラ&ワクワクするお話に仕上げました。
若い読者の方にも、大人の読者の方にも、3人の少年少女の一夏の冒険を夢中になって楽しんでいただければと思います。

www.poplar.co.jp

装画と挿絵の地図は、イラストレーターの芦刈将さんが描いてくださいました。こちら、細部まで描き込まれていて本当に素敵なので、ぜひ店頭でお手に取ってご覧いただきたいです。

広く、多くの方に読んでいただきたい作品ですので、皆さまどうぞよろしくお願いいたします。