やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

売れるということ

月刊スピリッツで連載中の松田奈緒子先生の『重版出来!』を読んだ。

重版出来! 1 (ビッグコミックス)

重版出来! 1 (ビッグコミックス)

出版社が舞台の、本を売る人達を主人公とした非常に熱い作品なのだが、主人公のセリフに「売れる・売れないの差はどこでつくんでしょう」という問いかけが出てくる。これに対しての書店員さんの答え(気になる方は買って読みましょう)が、売れない作家の立場で読むと、とても重い。
加藤山羊がこれまで出した漫画2作品は、どちらも「応援してもらえた」という感触があった。『イノセントブローカー』は新聞の書評コーナーやテレビ番組で紹介していただき、『女囚霊』では書店さんが物凄く怖い売場を作ってくださったりと、本当に身に余る扱いをしていただいてありがたかった。しかし、どちらも「売れた」と胸を張って言えるほどは売れなかった(『女囚霊』は自分達からすれば売れた作品なのだが出版社的にはそう思われていないだろう)。そして矢樹純として出した小説『Sのための覚書 かごめ荘連続殺人事件』については「売れてない」と胸を張って言えるほど売れていない。
売れないと仕事ができなくなるので、作家にとって売れることはとても大事だ。だが売れる・売れないの差をどう乗り越えていけば良いのか、作家の方にはあまり手立てが無いのではないかと思っていた。頑張って良い作品を書けば誰かの目にとまって話題になって……という展開があるのかもしれないが、そのためにはまずお客さんに手に取ってもらえる本でなくてはならない。手に取ってもらうために作家ができることは、手に取りたくなるようなタイトルを捻り出すくらいだ。
そんな考えなので自分はこれまで本が発売になった時に書店さんにPOPを置かせて欲しいと営業するくらいで、売るための努力というのを特にしてこなかった。努力できるポイントを探そうともしなかった。しかし『重版出来!』を読んで、本を売ることについて真面目に考え始めた矢先、いつも本を買っているららぽーと横浜の紀伊國屋書店さんで衝撃的な光景を目にした。

レジ前の文庫コーナーで、発売から8か月も過ぎた自分の本を、こんなふうに店員さんが手描きのPOPを作って展開してくれていたのだ。
とりあえずちょっと泣いた。それから売場担当の方を探し出して、気持ち悪いと思われてもいいからお礼を言った。
自分の本を売ろうとしてくれている人の存在を目の当たりにして、本を売るために作家ができることを本気で考えた。それは売れない作家には難問すぎて一つしか答えが浮かばなかったのだが、売れる本を書いて売れる作家になるしかないな、と思った。どんな状況にあっても諦めず、真剣に良い作品を書き続けていれば、いつか絶対に売れる時がくる。それは本当に絶対だと信じている。
今まで自分のためにしか「売れたい」と思いませんでしたが、これまで応援してもらった人達のためにも、心から「売れたい」と思ったので頑張ります。
そんな遅すぎる決意をした36歳漫画原作者兼作家の作品がこちらになります↓(売るための努力)
Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

女囚霊 塀の中の殺戮ゲーム (ビッグコミックススペシャル)

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イノセントブローカー (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

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