やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

長編ミステリー『残星を抱く』発売

5年ぶりとなる矢樹純の長編ミステリー『残星を抱く』(祥伝社)、7/13発売予定ですが、すでに今日の時点で入荷している書店さんもあるようです。
Amazonなどでも発売中となっております。

こちらの長編の企画が持ち上がったのは2019年、4月に『夫の骨』を祥伝社文庫から出していただいたあとの打ち上げの席でした。

まだ6月のことで、『夫の骨』は書評で取り上げていただいたりと、それまでの作品に比べれば評価していただけたものの、まだ重版も掛かっていませんでした。ですが祥伝社の編集さんはこの時点で、次作を書いてほしいと言ってくださったのです。

自分が小説家としてデビューしたのは2012年でしたが、デビュー作も、デビューした版元とは別の出版社で出してもらった2作目もまったく売れず、この『夫の骨』がやっと3作目という状況でした。つまりその時の自分は、何の実績もない作家でした。

「また書いてほしい」と言ってもらえたことが本当に嬉しくて、その打ち上げから2週間でプロットを書き上げて送りました。
この頃、自分は今さらになってジェフリー・ディーヴァーにハマっていて、特にノンシリーズの『追撃の森』が好きだったので、同じように家族の問題を抱えた女性が勇敢に敵と戦う話を書きたいと考えました。それで刑事の妻である《柊子》を主人公とし、主婦である彼女がある事件に巻き込まれていくというストーリーを書いたのです。

ところがプロットにOKをもらえて、資料を集めたり取材の申し込みをしたりと執筆の準備を始めた頃から、徐々に自分の仕事が忙しくなってきました。
短編集である『夫の骨』が評価され、また翌年にその表題作が日本推理作家協会賞短編部門を受賞したことで、短編の依頼を多くいただくようになりました。連作短編の企画で初めての小説の連載も始まりました。この時点では漫画原作の連載もあったので、腰を据えて取り組まなければならない書き下ろし長編の企画は、なかなか手をつけられない状態が続きました。
それでも祥伝社の編集さんは気長に待ってくださって、連載の合間を縫って少しずつ書き進めた長編は、2021年の8月末にようやく脱稿しました。

その原稿を読んでもらった上で打ち合わせをしたのですが、元々は文庫書き下ろしの企画だったこの作品に対し、編集さんは「単行本で勝負したい」と言ってくれました。そして詰め込みすぎてしまったエピソードを整理して、なおかつさらに説得力のあるお話となるようアドバイスをもらい、《勝負できる》作品に仕上げるべく、改稿することになったのです。

自分にとって長編はこれがまだ3作目で、しかも四六判の単行本で出してもらえるのは初めてのことです。読み終えた時に、絶対に満足してもらいたい。これまで感じたことのないプレッシャーの中、改稿に取り掛かることになりました。
改稿にはかなりの時間とエネルギーを費やしましたが、新たなアイデアを練り、それにそぐわない要素を削っていく過程は、登場人物に改めて向き合い、この物語を《あるべき形》に作り直していく手応えが感じられました。この作品を通して、小説家としてまた一歩、成長できたと実感しています。

素晴らしい装画は『夫の骨』と同じく安楽岡美穂さんが描いてくださいました。最後まで読み終え、本を閉じた時に、この山と空の情景を様々な思いで味わっていただければと思います。

読者の皆さまにとって、この小説と過ごす時間がドキドキワクワクする、幸せで充実したひと時となるよう願っています。
どうか多くの方に手に取っていただけますように。