やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

夏は別れの季節(出版社の場合)

昼間、担当さんから電話があり、先日送ったネームについて色々意見をされたあと、「実は私この度、異動になりまして」という話をされた。
今の担当さんには2年半以上お世話になった。担当さんはいつか異動になるもの、と覚悟はしていたので悲しいとは思わない。ただ、「この人には本当にお世話になったなあ」という感謝で胸が詰まった。
多分この担当さんに出会っていなかったら、自分達は連載を始めることも、単行本を出すことも無かっただろう。担当さんはセンスのおかしい(そしてそのおかしいセンスを押し通そうとする)自分を叩き直し、きちんと読者の方を向いたストーリーを作れるレベルまで引き摺り上げてくれた。描きたい話をただ描きたいように描いても、描いた本人以外誰も喜ばないんだよということを教えてくれた。
そんな当たり前のことすら分かっていない30歳の漫画家志望者を指導するのは、とても疲れる仕事だっただろう。自分だったら絶対にやりたくない。しかし担当さんは何度教えても基本を外したシナリオを上げてくる自分に対し、その都度的確にダメ出しをしてくれた。いまだにノリノリで書くと基本を忘れてしまうことがあるが、それでも大分マシな状態にはなった。
担当さんに異動の話を聞いてから半日は、今までお世話になったことを思い出してありがたい気持ちになってしまうため、他のことが何も手に付かず、ぼんやりと過ごしてしまった。決して「一生自分を担当して欲しかったのに」というドロドロした執着心で真っ黒になって思い詰めていたのではない。