やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

強制不妊手術のこと

優生保護法によって強制不妊手術を受けさせられた女性が、国に賠償請求を求める訴訟を起こし、ニュースになっている。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180323-00000008-mai-soci
昨年9月に刊行された『がらくた少女と人喰い煙突』が、ハンセン病患者の隔離施設をモデルとした孤島の療養施設を舞台としていることは、このブログでも以前書いた。
http://d.hatena.ne.jp/ieyagi/20151003/p1

がらくた少女と人喰い煙突 (河出文庫)

がらくた少女と人喰い煙突 (河出文庫)

しかし、強制不妊手術が物語の中で大きなテーマとして扱われていることは、これまで触れたことがなかったので、書いておきたい。
優生保護法による強制不妊手術は、主に遺伝性疾患と、精神疾患や知的障害を持つ人を対象に行われた。ハンセン病感染症であり、遺伝性はない。にもかかわらず、「ハンセン病患者による子供の療育困難」、「胎内感染の可能性」など、あいまいな根拠から、強制的に断種手術を行うことのできる疾病の対象となっていた。強制的とは、本人の同意が得られなかった場合、拘束したり、騙したり、麻酔をしたりといったことが「好ましくはないが許可されていた」という、文字通りの強制である。
『がらくた少女と人喰い煙突』の中で登場させた《赤痣病》は、「遺伝性はないものの、当時は遺伝病と考えられていた」という設定で、強制不妊手術の対象とした。登場人物の中で、《赤痣病》の患者として隔離され、断種手術を受けさせられた男性は、のちに手術を行った医師に謝罪を求める。しかし医師は、「当時は合法だったから」という理由で謝罪を拒む。
自分はハンセン病について取材し、ハンセン病訴訟について調べる中で、「法律に違反していないから」という理由で、行為が正当化されること。また、国によって、《間違った》法律が制定されることに、強い恐怖と、無力感を覚えた。自分がその時の法律に則って不当な扱いをされて、のちにそれが間違いだったと言われても、失われたものを取り返すこともできなければ、責任を取る人もいないのだ。
しかし、それでも訴訟を起こし、国を相手に戦った人たちがいる。その人たちは裁判に勝ち、国と政府を謝罪させた。それを知って、自分も何かしなければという思いで、この物語を書いた。
『がらくた少女と人喰い煙突』は、小学校の高学年くらいから読める内容です。ミステリー小説なので、読者の方に楽しんでもらうことが第一ですが、少しでも、国が定めた法律により、人生を奪われた人のことを知って欲しい。その人のことを思って欲しいという気持ちで書きました。
自分にとって、一人でも多くの人に届いて欲しい作品です。ミステリー小説としての面白さは保証しますので、どうか読んでみてください。よろしくお願いいたします。