ミステリー短編集『夫の骨』(祥伝社文庫)の表題作「夫の骨」が第73回日本推理作家協会賞短編部門を受賞しました。
緊急事態宣言で選考会が延期になるなど大変な状況の中で、様々な調整をしながらこのように作品を選んでいただけたことに、心から感謝いたします。本当にありがとうございました。
自分はデビュー作が売れなかったために最初の版元では次作を出すことができず、その後数年は野良作家として、出す当てのない状態で小説を書いていました。
始めに長編を書き上げて、ある出版社の方に読んでもらったのですがうちでは出せないというお返事で、その時に「短編を書いて力をつけた方がいい」というアドバイスをいただき、短編を書き始めました。「夫の骨」はその頃に、月に1本書くと決めて約1年間書き続けた短編のうちの一つです。
13本の短編を書き上げて、そのうち10本くらいは間違いなく面白いという自信があったのですが、野良作家の自分には作品を読んでくれる編集者の方がいなかったため、これを形にする手段がありませんでした。
考えた末に、著者エージェント会社のアップルシード・エージェンシーさんにお願いして、出版社を探してもらいました。そして祥伝社文庫の編集者の方に作品を読んでいただき、出版してもらうことができました。
受賞の喜びを書くべきブログであまりネガティブなことは書きたくないのですが、出す当てのない状態で小説を書くというのは、一度作家としてデビューしている身としては、結構つらかったです。「なんでこんなことになったのか」と、デビュー作が売れなかったことやその他諸々の運命を呪いました。
そんな中、本当に書くほどに力がついていくことと、自分の書く作品が面白いと思えたことだけが救いでした。これはいつか、絶対に形になる、世に出せると信じて書き続けました。
出版された『夫の骨』は、書評を書いていただいたり、書店員の方が売場を作ってくださったりとたくさんの方に応援していただき、自分にとって初めての重版作品となりました。
そうして多くの方に読んでいただけただけでも物凄く嬉しいことだったのに、ミステリー作家としていつか獲れたらと願っていた憧れの賞をいきなりいただいてしまい、喜びと驚きと、「自分など場違いなのでは?」という不安でいっぱいでした。
ですが、この受賞を読者の方々や編集者の方、エージェントさん、同業の作家さん達、家族や青森の両親、親戚が本当に喜んでくれて、皆さんにお祝いの言葉をかけてもらううちに、「ああ、これは本当に喜んでいいことなんだ」と、じわじわと素直に嬉しくなってきました。
そしてたった今、こんな見事なものが届いてしまい、こうなったらもう喜ぶしかないですよね。
めちゃめちゃ嬉しいです! これまで応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました。