やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

それは1本の電話から始まった

午後5時、牛人間は夕食のシュウマイを作っていて、自分は『ぱど』という団地のポストにタダで配られている生活情報誌を見ていた。
『ぱど』には不動産を紹介しているページがある。2人目の子供が産まれたのを機に、自分と牛人間は、そのうち中古の一戸建てを買うか借りるかして引っ越そうと計画していた。自分達夫婦は田舎出身なので、マンションを買うとか借りる、という選択肢は考えていない。そんな狭くて箱みたいな建物は人間の住むところじゃないのだ。ちなみに今住んでいるところは貧乏人向け公営団地の4階(当然エレベーター無し)である。
で、その不動産のページに、中古の物件でとても広々とした家が売りに出されているのを見つけた。リビングが20帖もある4LDKだ。築年数は20年と古いが価格は2000万円台の半ばくらい。同じページの他の物件に比べるとかなり安い。牛人間にそう言うと、「これはお買い得だから不動産屋に電話してみよう」ということになった。
不動産探しは、この“不動産屋に電話”という段階からいきなり本気モードにシフトしていく。どういうことかと言うと、「そのうち良い物件が見つかったら」くらいの気持ちで考えていたのに、不動産屋は次々と条件に合う物件を見つけてきては週末毎にその物件の見学に連れ回してくれるのである。で、探していた自分達としても、実際に物件を見に行ったりすると「一戸建てに住みたいものだ」という欲望がどんどん強くなり、どんどん現実のこととして考えるようになっていく。
とにかく、この日の1本の電話から自分達夫婦の生活は大きく変わってきているのだ。このカテゴリーでは、貧乏夫婦がささやかな中古一戸建てを手に入れるまでの険しい道のりについて書いていきたい。自分はその中古一戸建てをイタリア家屋風にリフォームしたいと希望しているが、牛人間に「そんな無駄なことに使う金は無い」と却下された。