やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

買付証明書に実印を押す

10時、不動産屋のTさんが迎えに来たので車で出発。施工業者が他の客と打ち合わせをしているそうなので、その時間潰しに間取りの参考になるようにと4LDKの新築物件を3件ほど見せてくれた。元々例の中古物件を案内するという話も時間調整のためだけだったらしい。人騒がせな。ちなみに今日、「物件の鍵は持ってるんで良かったら例の家も見ますか?」と言われたが断固拒否した。リビングで人が死んだ家になど、怖がりの自分は入れない。今時人間は病院で死ぬのが普通だというのに、リビングなんかで死ぬとは(病死だったらしい)うかつなばあさんである。おかげで売ろうにも売れないのだから遺族は大迷惑だろう。
11時半に工務店に到着。工務店の人(Yさんとしておく)に自分が書いた間取りを渡し、それをざっと図面に落として貰う。ここまで詳細な間取りを書いてくる客はやっぱり珍しいそうで、Yさんは「これじゃ私の仕事が無くなっちゃうなあ」と笑いながらも気持ち悪いラブレターを貰った時のような目で自分を見ていた。
結局、システムキッチンの大きさを間違えていて希望していたパントリー(食品などを入れておくおしゃれで便利な納戸)が作れなかった以外は、大体自分の書いたとおりの間取りになりそうだ。これを元に作った詳細な図面を後日FAXして貰うことにして、その後はTさんから契約の流れについて説明を受ける。
今や自分達のバイブルとなっている『買っていい家わるい家。』には契約の時の注意事項なども書いてあったので、前日に予習をしておいた。こういう“建築条件付き土地”を買う上で注意することは、土地と同時に建物の請負契約をしない、ということである。本来建物の請負契約は家の設計図が出来たくらいの時に交わすものなのだが、仲介業者である不動産屋はとっとと契約して貰って早く仕事を終わらせたいので、簡単な間取りが決まった段階で、土地の契約と同時に建築請負契約を「そういう決まりですので」などと言って迫ってくるらしい。
当然Tさんは悪徳不動産屋なので、契約の説明についてはいつも以上に早口になり、土地と建築請負を同じ日に契約させようとした。「請負契約は工務店さんと話を煮詰めてからでいいんですよね?」とキッパリ柔らかく拒絶する。それからTさんは重要事項説明書(契約に関しての条件など、契約を交わす前に宅建主任者が説明しなければならない重要事項が書いてある)も契約書も、契約当日に読ませてハンコを押させようとしていた。これも「その場で読んで契約するのは不安なので事前に貰っておきたいんですが」とこっちの要求を通す。Tさんはどちらについても「ええ!もちろんそういう風にも出来ますのでそうさせて頂きます!」と笑顔で言っていたが、何も言わなければ不動産屋の都合のいいようにされていた訳である。ぼんやり生きていられない世の中だ。
ちなみに牛人間は昨日一緒に予習したにも関わらず、不利な状況に追い込まれそうになってもモジモジしていて何も言わないので自分が主にTさんとやり合うことになった。牛人間は思いのほか恥ずかしがり屋なのである。今日は契約の前段階の買付証明書(「この物件を買う気がありますよ」と意思表明し、銀行にローンの与信をしたりする)に牛人間が実印を押した。これから貰う重要事項説明書と契約書を読んで、問題が起こらなければ再来週に土地売買契約である。