やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

使えないけど生きている

午前中に次女を皮膚科に連れて行く。一昨日より大分良くなっているとのことで、今の薬のまましばらく治療を続けることになった。買い物して100円の回転寿司で昼食済ませて帰宅後、夕食のカレーライスを作ってからミステリーのプロットに入る。
11日の地震から数日は仕事が手に付かない状態で、そのあとは買い出しが困難になったり計画停電のために家事の段取りが狂ったりと生活するだけで精一杯になり、早く仕上げなければならないプロットの直しの仕事がずっと後回しになってしまっていた。他の作家さんのブログなどを読むと(←そういうのを読んでる暇があったら仕事すればいいのにね)、皆さん被災地の現状に心を痛めながらも「今自分に出来ることをやるしかない」とプロフェッショナルに目の前の作品に立ち向かっている。しかし自分は被災した人のことを考えるだけで気持ちが暗黒になり、家事など頭を使わない作業は何とか出来るものの、プロットやシナリオといった思考を必要する仕事は全く進められずにいた。
元々メンタルは弱い方だが、今回の東北の地震では阪神大震災の時と比べ物にならないほどショックを受けた。それは自分が同じ東北の人間だからというのもあるが、以前からやりたかった仕事に就いたり、結婚したり、子供を持ったりと、大学生だったあの頃に比べて色々な経験をしたからだと思う。“物語を作る仕事をしたい”という夢の半ばで命を落とすことになった人、また生き残ったものの、その夢を追うどころではなくなってしまった人、避難所で小さな子供を抱え不自由な暮らしを強いられている人、大事な人を失った人、逆に大事な人を残して亡くなった人のことを、リアルに想像出来るようになってしまったのだ。
普通の生活をしなければと思いながらも、ふとした拍子に被災した人達――特に亡くなった人達のことが頭をよぎり、その度に息が詰まって涙が止まらなくなるという完全に病気の状態が続いていた。こういう時に「亡くなった人達の分までしっかり頑張らなければ」と悲しみを前に進む力に変えられる人もいるのだろうが、自分はただ悲しくて、逆に力が抜けて行くばかりだった。
だが、さすがにこのミステリーのプロットを地震から10日間も放置していることで胃が痛くなってきたので、「毎日少しずつでもいいから仕事を進める」と決めて3日前から取り掛かり、本当に少しずつしか進められなかったが、やっと今日完成させて、遅れたお詫びと共に担当さんにメールすることが出来た。
つくづく自分は使えない人間だと思う。でも生きているので、こうして流れていく時間の中にいる。未来があるのだから少しずつでも前に進まなければと、自分に言い聞かせながら生活している。