やぎのくらし

小説家で漫画原作者の矢樹純のブログ

打ち合わせ二連荘

6時50分起床。晴れ。朝食はマーボー丼とりんご。夫は千葉に出張のため、早くに家を出て行った。子供が登校したあとは机周りの整理をして、作画の加藤山羊と打ち合わせ。今日の打ち合わせで確認すべきことなど話し合う。
今日の打ち合わせ、というのは二件あり、一つは自分が単独で受けているサスペンスホラーの企画の打ち合わせ(本来月曜に会う予定だったが雪で延期になった)、もう一つが加藤山羊と組んでやっている仕事の打ち合わせで、こちらはかなり重い内容になるはずだった。うつ病の自分には荷が重いが、仕事は仕事なので頑張るしかない。
必要な資料などまとめて家を出て駅へ。まずはサスペンスホラーの企画について、ファミレスでエビマカロニグラタンをご馳走になりながら打ち合わせをする。
昨年末に2話までのシナリオと最終話までのプロットを担当さんに渡してあったのだが、それを編集長に見せたところ、思わぬ提案をされたとのこと。サスペンスホラーの企画はそのまま進めて良いが、それとは別に「こういうのが書ける人には、もっとメジャー寄りの企画をやらせた方がいいんじゃないか」と意見されたそうなのだ。
《メジャー寄り》の定義が分からなかったので聞いてみたところ、「雑誌の中で看板を張れるような作品のことです」と、いくつか作品名を挙げて説明される。どれも有名な人気作品で、どうして編集長が自分にそういうのが書けそうだと思ったのか分からない。もしかして普通に企画をボツにするのは可哀想だから、希望を持たせるためにそんなことを言われているのではないかと、うつ病特有の被害妄想が湧いてくる。
だが担当さんの話し方からするとそんなことはなさそうで、言われたからにはチャレンジしてみようと、その場でアイデアを出す。出したアイデアを担当さんの意見も入れて練っていき、「じゃあそれでいきましょう」と、あっさりもう一つの企画が立ち上がった。こちらは裏社会もののサスペンスで、なかなか面白くできそうな感触である。
担当さんと別れたあと、次の打ち合わせまで1時間近くあったので、駅ビルの中にあるマッサージ店でマッサージを受ける。このあとにつらい話を聞くことになるので、少しでも自分を癒しておこうと思ったのだ。月曜に雪かきをしてから右肩と背中がガチガチに張っていたのをほぐしてもらう。
30分のコースを終えて、ちょうど時間になったので改札に担当さんを迎えに行く。そしてさっきと同じファミレスに入り、打ち合わせを始める。
実は自分と加藤山羊が描いたある作品に、昨年の春頃、映像化の話が来たのだ。
自分達の作品は意外と映像化の話が来る機会に恵まれており、初めての単行本である『イノセントブローカー』

には映画化とドラマ化のお話をいただいたし、『女囚霊』も映画化のお話をいただいた。だが残念ながら、どれも実現しなかった。
しかし今回の話については、詳しくは書けないが《かなり実現する可能性が高いレベルの話》ということだった。それで編集部の指示により、自分達作者は映像化のタイミングで作品を掲載するための描き溜めをしたりと、すでに映像化を前提に仕事をしていた。
しかしそれが、映像化の企画を出していた会社の人事異動でトップが変わったことで《すでに通っていた企画を見直す》というレアな事態となり、自分達の作品の企画は白紙になってしまったのである。
担当さんによれば「このレベルで進行していた話が白紙になるのは編集部でも初めて」とのことで、自分達に起きたケースはかなり珍しいらしい。こういうのを《持ってる》と言うんだろうか。完全に負の意味だが。
結局、今まで映像化を前提に動いていたのがそうではなくなったので、作品の今後について改めて編集部の意向を聞きつつ、こちらの要望も伝えて、「じゃあそれでいきましょう」と、昼間の打ち合わせとは全く違うテンションで決めるべきことが決まる。
映像化の話が消えても同時に仕事が消えるわけではなく、むしろ映像化のタイミングで…と考えていたことを前倒しでやらなくてはいけなくなったので、忙しさは増した。気持ち的には相当悲しいし残念なのだが、あまり落ち込んでいる暇がない。「葬式は遺族を忙しくさせて悲しむ暇をなくすためのシステムだ」というような話を聞いたことがあるが、それに似た状況かもしれない。まあ映像化が白紙になった悲しみなど、家族を亡くした人の悲しみに比べれば塵のようなものだが。
で、この映像化の話は自分達も「ほぼ決定事項です」と聞かされていたため、家族や友達、作家仲間や漫画家仲間の方に、「まだ内緒の話だけど実は…」という感じで伝えてしまっていた。家族には自分から報告しましたが、このブログを読んでくれている友達や作家、漫画家仲間の方、そういうことになりましたので察してください。一緒に喜んでくれた方々、本当に申し訳ないです。打ち合わせを終えてスーパーで買い物して帰宅し、玉ねぎとニンジン、椎茸を細かく刻みながら加藤山羊に電話で今日の打ち合わせの内容を伝える。加藤山羊も明日仙台で担当さんから同じ報告を受けることになるのだが(こういう深刻な報告は顔を合わせて、というのが決まりらしい)、先に聞いておいた方がショックは小さいだろう。
夕食は細かく刻んだ野菜とひき肉を炒めてトマト缶とケチャップを加えて煮込んでミートソースを作った。夫の帰宅を待って、茹でたてのスパゲッティにかけて食べる。そしてヤケ酒としてワインを飲む。
風呂に入って子供を寝せたあと、スーパーで買ってきたカツオのたたきをつまみに本格的にヤケ酒を飲み始める。飲みながら夫と今回のことを話すが、夫は「またいつか映像化の話は来るだろうから、それまでにコンテンツを増やせれば逆にいいんじゃない?」とあくまで前向きで、それほどがっかりされなくて救われた。録画のアニメなど観ながら0時まで飲んで寝る。